古ぼけた扉の向こうから

夜は過酷だよ。それは動物だけじゃなく俺たち人間にとっても同じだ。特に俺たちバイク乗りにはな。夜はとても過酷だ。さらされる危険の数を数えたらきりがない。古ぼけた扉の向こうからいつ死が訪ねてきてもおかしくない。夜バイクに乗るとはそういうことだ。


夜は視界を奪う。視界を奪われたバイク乗り(俺たち)は残された感覚を研ぎ澄まし視覚を補おうとする。肌にあたる風、鼻孔を抜ける匂い、かすかな風切り音の変化、あとなんか味。視覚を奪われたライダー(俺たち)はとにかく生き残ることに全ての感覚を費やす。


そして何より凶暴になる。大半を奪われた視覚と、研ぎ澄まされた感覚器官に更に集中しようとすると、否応なしに漢たち(俺たち)は凶暴になる。そして凶暴に乱暴にアクセルを開ける。アクセルを開けないと死ぬ。怯えてアクセルを開けられない、それはすなわち死を意味する。だから俺たちはアクセルを開ける、怯えたら負けだ。考えたら負けだ。負けそれはすなわち死だ。


五感を研ぎ澄まし、アクセルをひたすら開ける、開ける、開ける。そして閉める。開けて閉める。開け閉めする。スロットルを開けたり閉めたりする。少しだけ開けて、またときには開けようかなと思って閉めたりする。危ないから。閉めたり、開けたりもする。法定速度を守りアクセルを開ける。法定速度内且つ法規を遵守しアクセルを開ける。ウィンカーを出す。戻す。できれば早めにウインカーを出す。そして必要以上に確認する。特に夜は危ないから必要以上に左右を確認する。スピードも出さない。後ろに多少車が渋滞しても構わない。危ないから。夜にバイクでスピードを出すのは危ないから。ちょっとした段差でふらついたりするから。乗らない。最悪乗らない。乗らないほうが良い。夜は。危ないから。夜バイクに乗るのは危ないから。
なんなら昼も危ない。バイクは危ない。

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