午後9時過ぎ頃だったか。助手席にメリッサ(仮名:娘3歳ちょい前)を乗せ夜の国道を走っていた。
福岡の中心から郊外へ続く片側2車線。既にこの時間は車もまばらで、道路脇のオレンジの街灯がテンポよく流れていく。どこに行く用事があるわけではなく、あてもなく夜の街を走らせる。オーディオからはメリッサの好きな曲ばかりを集めたプレイリストが小さなボリュームでかすかに流れ、古い車特有の薄暗いインパネの明かりが、窓から夜の街を眺めるメリッサの横顔をかすかに照らした。また、時折その年代物の柔らかな足回りが小さくコトコトと鳴った。
これはねむねむドライバ。(メリッサはドライブを「ドライバ」と言う)眠れなくなったメリッサが眠くなるように車で近所をうろうろするだけの極めて経済性の悪いゆりかごだ。
「とーとー、どこいくの?」
メリッサが聞く。
「メリッサはどこへ行きたい?」
「メリちゃんね〜ロケットでジブリ展に行きたいっ!」
以前家族でジブリ展へ行ってからよほど気に入ったらしく、メリッサはその後何度もジブリ展へ行きたいと言った。そしてなぜかいつもロケットで行きたいと言う。ロケット?ロケットか。
「またジブリ展行こうな。ロケットで行けるかはわからないから、どうやって行くか考えてみようぜ」
「えーだめだよーメリちゃんロケットで行きたいよ、ロケットで行きたくなっちゃったよージブリ展」
ウィンカーをあげ国道から脇道へ。右折車線は我々の車だけで、対向車線からは途切れがちに車が向かってきている。ハンドルを切るタイミングを待つ。
「ロケットで行くには近すぎるんじゃないか?ジブリ展」
「遠いよっ!ジブリ展近くないっ!ね〜とーとー、ロケットで行こうよロケットで〜、メリちゃんロケットで行きたいよ〜ジブリ展」
「例えば新幹線で行くのは?新幹線で行こうぜ」
「ああ〜!新幹線〜!メリちゃんね〜ミッキー新幹線乗りたいっ!」
「ロケットと新幹線どっちで行く?」
「うーんあのねっ」
国道から1本入ったこの辺りは街灯もまばら。田畑の中に点在する民家の明かりが近くに遠くにポツポツと見える。カーブのある幅広の道をゆっくりハンドルを切りながら進む。前も後ろにも我々以外の車はいない。効きすぎた暖房を少し弱めた。
「ロケットかなっ。ロケットで行くのジブリ展。あのね、黄色いロケット!」
「やっぱロケットか。」
「行こうよ〜ロケット。ロケット行きたいよ〜」
「ん?ロケットに行くの?」
「メリちゃんロケットに行きたくなっちゃったよ〜」
「ジブリ展じゃなくて?」
「ロケットだよ〜黄色のロケット!とーとーお願いしますよ〜」
メリッサはお願いレベルが増してくると敬語になる。
「ロケットに行きたいのか。うーんスペワは無くたったし近くにロケット無いもんな」
「お願いしますよ〜とーとー、ロケット行きたいですよ〜」
「ロケット見れるところ探しとくよ。」
「やったっ!ロケット行こう!とーとー!とーとーありがとっ!」
「おう。ジブリ展どうする?」
「ジブリ展… うーんあのね、メリちゃんはねっ!ロケットでジブリ展行くの!黄色いロケット!」
まだまだ終わりそうにないドライバ。
俺はねむねむドライバが結構好きだ。
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