てめえはまるで捨てられた狂犬だな

2020年も始まって既に半月が経過した。季節は真冬。今年は暖冬なのだがそれでも朝晩は0℃近くまで冷え込む。

分厚い革ジャンに厚手のブーツソックス、使い込まれた革手袋。そう、真冬の夜明け前のこの最も冷え込む時間に俺はバイクに乗ろうとしている。なぜかって?うるせえ!バイクに乗るのに理由なんてねえんだよ!すっこんでろ!

マシンに火を入れる。幾度かのセルモーターが廻る音の後に力強く目覚める俺の激イケてるマシン。ドゥルンドゥルンドゥルンドゥルン・・・ようし、今日も求めてるじゃねえか、てめえはまるで捨てられた狂犬だな。ククク悪くねえぜ。このイカれ狂っちまった世の中をぶっとばしてやろうぜ、そう語りかけるとマシンは「ドゥルンドゥルンッ」嬉しそうに尻尾を振った。

「フン、俺は媚びるやつは嫌いだぜ、行くぞ!!」

ドゥルンドゥルンッ!ドゥルルルルンッドゥルルルルルルルル

俺たちはまるで人類が滅亡したかのように静まり返った、冷え切った世界へと走り出した。今この世界には俺たちしかいない。そう思わせるには十分過ぎるほど真冬の夜明け前の沈黙は厳しく過酷で、それでいてどこか美しささえも感じさせた。そんな夜明け前の暗闇にマシンの力強い排気音が地を這うように響く。俺はアクセルを力強く握り、顎を思いっきり引き頭をかすかに下げる。狂犬を操る。こんなクレイジーな世界でもバイク乗りだけは自分を見失わない。見失うはずがない。なぜかって?うるせえ!!てめえで考えろ!!何度も言わせるなこの野郎!すっこんでろ!俺は今クレイジーな狂犬を操る人類最後の生き残りだ。そんなことを考えていた。その時だった。

ん、あ、寒い。全然寒いこれ。だいぶ寒いよ。マジで寒い。あーダメダメ。風邪引くわこれ。特に手首足首。ここだってほぼ革一枚だもん。こんなの寒いに決まってるじゃん。あと顔。ほら俺ゴーグルだからさ、フルフェイスじゃないから。体感気温-10℃は無理だよ。凍る。無理無理。事故っちゃうから。クラッチ握れずブレーキ握れずに事故っちゃう。だめだめ。寒すぎる。あとズボン。ズボンの膝あたりなんでこれ結局あれじゃん?布一枚だよ?この極寒のなか。無理だよそんなん。寒いよ。俺他人だったら言うもん、何やってんのあんたって。イカれてんの?って聞いちゃう。こんな寒い中バイク乗ってると。ダメダメ。やめよう。だめ。全然。寒すぎる。

俺は急ぎ目で引き返し、車に乗り換えた。革ジャンも革手袋も脱ぎ捨てて暖房全開にした。もちろんシートヒーターもMAXにした。あばよ狂犬、週末暖かかったらどっか行こうぜ

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