夜が明けるのが待てない。そんな夏だった。
オリンピックの開催が東京に決まった年にキャロラインと結婚して夫になった。その後メリッサとクリストファーが生まれ二児の父になった。
割と奔放に生きてきたつもりではあったが、やはり結婚すると愛する妻との時間を大切にしたいし、子が生まれると、殊更家族との時間を大切にしたいと思うようになった。事実、4人家族になってからは友人知人からの誘いを断り家族で過ごす時間が格段に増えた。自分ひとりの時間もほとんど無くなった。
特に意識したことは無かった。ただ妻と過ごしたい、家族と時間を共有したいと思った結果、自分の時間や知人友人と過ごす時間が減っていっただけのことだった。そのことについて深く考えたことは無かった。同時に、これまで好きだった読書、雑なインターネットサーフィン、目的の無いドライブなど、自分ひとりの時間を過ごすことがほとんど無くなっていることにも気がついた。もちろんそのことも同様、特に意識せず家族との時間を優先した結果であり何の不満も無かった。むしろ望んだことだ。
いつの出来事か具体的な言及は避けるが、そんな日々を過ごしていたとき、ブログにも書きにくい程の屈辱的な事態に直面をした。
事態に直面をした時は息を呑み冷や汗が流れるのを感じた。事実に向き合うのに時間がかかった。一人で抱え込むことが辛かったので、申し訳ないと思いつつ、60代も終わりが見え始めた田舎で隠居をしている父に話を聞いてもらった。父は静かに話に耳を傾けてくれた。また時折自身の経験を落ち着いた口調で話をしてくれた。結果、大きな動揺から少し心を落ち着けることができ、前を向く準備ができた。自分に足りていないことは何か、一人の独立した人間として何に取り組むべきか、少しずつ整理を始めた。
これまで時間を費やし生活の中心に置いていた妻や家族と過ごす安寧の時間は当たり前に齎されるものでは無く、自ら積極的に獲得し、守らなければならないものであると改めて認識し、はからずも経験を以て理解をすることができた。
そのためには夫として父として、あるいは家長として。家族というチームを守るために自らの研鑽と知見を広げるためのインプットが重要であると強く感じた。それは拙い子らに世の習わしや成り立ちを説く際の言葉にも広さと深みを持たせるし、妻に喜んでもらえるような常に新鮮な話題を提供することにもつながるだろう。また、そのインプットを適切な形でアウトプットすることが何より重要であると改めて気付くことができた。
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自己の研鑽、知見の獲得と言えば耳障りは良いが、要は、夫や父という立場や時間に追われる生活であったとしても、きちんと学び経験し、それをアウトプットしよう。ということだ。
再び本を読むようになった。雑なインターネットサーフィンをするようになった。再び趣味に向き合うようになった。もちろん家族との時間は犠牲にできない。家族との時間を犠牲にするというのはその分キャロラインの負担が増えるだけのことなので、そもそも家族との時間を減らそうという選択肢は無い。なぜならそれほどメリッサとクリストファーとの日々の暮らしはパワフルでタフだからだ。
ではどのように時間を作るようしたか。朝だ。夏の朝は長い。
前の晩は遅くても10時には就寝し、翌朝は4時〜5時前に起床をする。起床してからキャロライン、子らが起きてくるまでを自分の時間とした。具体的に言えば5時〜7時の2時間程度か。
この夏はその2時間で様々なことに取り組んだ。若手と呼ばれていた頃には当たり前に実践していた仕事術を取り戻す為のビジネス書を読み漁ったり、当時は敬遠していた自己啓発本も何冊も読んだ。また仕事に関連する技術や市場を取り扱った本も何冊か読んだ。もちろん趣味の雑誌や書籍も何冊も読んだ。夏の朝の時間は昼の猛烈な暑さと刺すような日差しが嘘のように静かで、穏やかな時間だった。心を落ち着け、時にはワクワクしながら様々な本を読みふけった。
趣味にも時間を費やした。以前紹介したエルドレッドや、近所で社長をやってる幼馴染のフランチェスコなどの友人達と夜明けからのツーリングに繰り出したこともあった。久しぶりに友人と過ごす趣味の時間は最高だった。その他にも念入りに車を洗うこともあったし、庭木を手入れし愛でることもあった。そして7時、遅くとも8時前には家に帰り着き、仕事を始める毎日だった。
今日は充実した一日だった。明日は何をしよう。と夕方頃から考え始め、明日の朝のこと想像しワクワクしながら寝た。
その結果最近では、一日が終わりかける夕方には夏の終りを惜しむヒグラシの鳴く声を聞きながら、子らと今日も最高の一日だったねと話すことができるまでには気持ちも持ち直し、前を向き始めることが出来ているように思う。非常にシビアに、正直に自らと向き合った夏だった。
努力しているという気持ちになってはダメだ。楽しまなければ。続けようと思ってはダメだ。辞めたくないと思わなければ。自己の研鑽と知見の獲得、生活に工夫をして楽しめるように取り入れていこう。
そろそろ夏が終わる。夏が終わって朝が短くなったらどうやって自らを高めるための時間を作ろうか。大丈夫。今回の躓きから得たことを大切に、日々の小さな浮き沈みに一喜一憂せず、遠くの目標を目指し自信を持って取り組んでいこう。