クリストファーのねむねむドライバ

クリストファー(仮名:息子1歳半)が卒パイチャレンジを頑張っている。卒パイチャレンジとは強制的におっぱいを卒業させられる、所謂世間で言うところの断乳だ。
メリッサ(仮名:娘3歳ちょい)は比較的スムーズに卒パイできた。が、クリストファーはメリッサに比べて食が細い。その分をパイで補っている節がある。夜寝る前も必ずパイだ。昼寝のきっかけもパイ。クリストファーは非常にパイに依存して生きている。

なぜクリストファーは卒パイする必要があるのか。それはクリストファーがパイに依存していることが我々林田チームに脆弱な一面をもたらしているからだ。そうでなければ無理に卒パイさせる必要も無かろう。脆弱な一面とは、長時間キャロライン(仮名:妻)と離れていることができない、寝る前に必ずパイが必要になる、空腹になりにくいためクリストファー自身がが食事に集中できない、キャロラインが慢性的な寝不足になる。俺がキャロラインの弁当を食べることができない。などである。

そんなこんなで昨日遂に卒パイチャレンジ1日目を迎えた。風呂に入り食事を終え、いつもどおり4人で遊んだ。しばらくするとメリッサが

『かーかー、寝よう』

と言い出したのでみんなで洗面所へ行き、メリッサはかーかーはみ(キャロラインが子供たちにしてあげる歯磨きを我々はかーかーはみと呼びます)、クリストファーはとーとーはみ(俺が子供たちにしてあげる歯磨きを我々はとーとーはみと呼びます)をした。そして2Fの寝室あたりでお遊び第二弾が始まった。いつもであればこのお遊び第二弾が行われている間に眠くなったらメリッサは自分で布団で眠り、クリストファーはキャロラインにパイをしてもらいながら眠る。が、今日は違う。お遊び第二弾の途中でキャロラインがこっそり1Fへ降りた。そしてお遊びをしているのは俺とメリッサとクリストファーだけに。3人でゲラゲラ遊んでいるがクリストファーはまだキャロラインがいないことに気が付いていないようだ。

しばらく遊んでいるといつもどおりメリッサの独り言が多くなり、いつの間にか眠りについた。クリストファーも目をこすり眠そうにしている。俺はいつもと違うことに気が付かせないにようにクリストファーを抱っこして眠らせようと試みた。が、クリストファーは抱っこを拒否、キャロラインを探し始めた。

『かーか?かーかー』

はじめは普通に探していただけだったが、次第にその声に悲壮感が混じりはじめ、ぐずりに変わった。

『かーかー!かーかー!』

寝かしつけようと試みるがクリストファーはキャロライン探しに必死で聞こうとしない。眠るどころか目が冴えてしまっているのだろう。キャロラインを探す声は更に大きく、悲しくなっていく。

『かーかー!かーかーかーかー!』

俺も聞いてて悲しくなってきた。キャロライン、どこに行っちゃったんだよ、キャロライン・・クリストファーがこんなに泣いてるじゃうないか、帰ってきてくれキャロライン・・くそう、もうだめだ、あれしかない。こんなに悲しそうなクリストファーを救うにはあれを発動するしかないんだ

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> ねむねむドライバ! <
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ねむねむドライバとは?

こうなったらもう俺にできることはねむねむドライバしかない。悲しさで暴れまわるクリストファーを強引に抱き上げ階段を降りた。その時だった、リビングにキャロラインがいたのだ!おいキャロライン!そこは隠れてなさいよ!クリストファーに見つかっちゃ・・

『かーかーかー!!!かーかー!!かーかー!!』

見つかった。
人さらいにでもなった気持ちだった。クリストファーは心の底からキャロラインを求めている。が、俺は心を鬼にして見えないふりをしてクリストファーを強引に連れ出し、車のチャイルドシートに座らせた。後部座席のチャイルドシートに大泣きしているクリストファーを乗せて車を発進させる。大丈夫。ねむねむドライバは楽しいから。

車が動き出した。クリストファーとは初めてのねむねむドライバだ。しばらく走るがクリストファーが泣き止む気配は無い。クリストファーの好きな歌を少し大きめの音量で流してみる。1曲目、全然泣き止まない。2曲目、まだ泣き止まない。うーん難しいか。曲中も俺がクリストファーを勇気づける。

『大丈夫、クリストファーは強いから。とーとーもついてるから。安心して寝ていいよ。大丈夫だよ朝起きたらキャロラインがいるから。いっぱい甘えていいから。大丈夫。クリストファーは強いから。』

などと言いながら3曲目、少し泣き声が小さく、途切れがちになった。流れている曲は天空の城ラピュタの主題歌である 君をのせて だ。曲が終わりに差し掛かるころ、クリストファーの泣き声はほとんど治まっていた。そして曲が終わり次の曲への一瞬無音になるタイミングだった。

『もかい』

久しぶりにクリストファーの泣き声じゃない声を聞いた。クリストファーが頑張って絞り出した小さな声にはまだ少ししゃっくりが残っていた。俺は嬉しくなって、

『おうおう!何度でも聞こうな!これさいい曲だから、とーとーも大好きだから!』

君をのせてをリピートした。もうクリストファーの泣き声は聞こえない。2回目の君をのせてが終わると、再び後部座席から小さな声で

『もかい』

『よしよし、もう一回聞こうな。何度でも聞こう。いい歌だもんな。』

クリストファー頑張れ。大丈夫大丈夫。とーとーいるから。寝て良いんだよ。クリストファーは強いから。大丈夫だよ。

曲が流れてる間ずっと小さくつぶやいてた。つぶやいてた時俺少し泣いてた。

何度かクリストファーの『もかい』で曲をリピートした。既に家を出て30分以上が過ぎ、もう北九州に近いところまで来ていた。そして何度目かのリピートが終わった時、クリストファーの『もかい』が聞こえなくなった。適当なコンビニで車を停めて後部座席を伺った。クリストファーは深めのチャイルドシートで少しだけ首を傾けて気持ちよさそうにスースーと寝息を立てていた。目尻には少し涙の跡が残っていた。それを見てまた俺少し泣いた。

車をUターンさせ来た道を引き返した。福岡を東西から南北に貫く県内で最も重要な国道だが22時を過ぎたこの時間はもうすっかり車はまばらだった。日中から夜にかけて降り続いた雨もいつのまにかやんでいた。雨が上がってあたりは一層冷え込んでいるようだった。車の温度計は外気温2℃を示している。適度に暖房が効いた車内は心地よく、うっかりすると俺までも眠くなってしまいそうだったが、後部座席には難しいチャレンジの1日目を終えた勇敢な男の子を乗せていたので、いつも以上に慎重に車を運転し、安全に、揺らさないように家へと向かった。

んで今朝。
いつもはメリッサやクリストファーが起きる前に出勤することも多いが、今朝はクリストファーが起きてくるのを待った。起きてきたクリストファーを抱きしめて、

『クリストファー!よく頑張った!一人で寝れたね!とーとーは嬉しかったぞ!すごい!強いぞ!クリストファーは強くて優しいぞ!』

とか言いながらクリストファーが嫌がるくらい抱きしめた。クリストファーは何のことだかわかっているようで、朝起きたばかりなのにとても嬉しそうにした。クリストファーの顔がとても逞しく見えた。誇らしそうにも見えた。それはとてもかわいい笑顔だったし、格好良い男の子の顔にも見えた。んで会社に来る途中思い出してまた俺泣いた。もうほんと泣いてばっかりだ

クリストファーは無事にこの難しいチャレンジをクリアできるだろうか。大丈夫。クリアできるよ。クリストファーは強いし、とーとーもいるから。大丈夫。

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