禁煙5センチメートル 〜コスモナウト〜

タバコやめてそろそろ2年が経つので禁煙の話でもしようと思います。させてください。
林田おまえねいい加減なんなの?って人ね。いますよね。はい。
では始めますね

私はタバコを約15年間吸っていました。1日に吸う本数も少なくなく、多いときは2箱吸うこともありました。飲みの席で1箱吸いきってしまうこともありました。実家に居た頃は自身の部屋で吸っていました。一人暮らしを始めてからは自宅で。シェアハウスに住んで居た頃はキッチンで(住人で決めたルール)。結婚したばかりの頃に住んでいたアパートでは、窓のあるトイレかベランダで吸っていました。あとは学校の喫煙所、会社の喫煙所、駅の喫煙所、道端の喫煙所、飲み屋、友達んち、車の中、など吸えるところではあらゆるところで吸っていました。銘柄は一貫してマルボロの赤でした。本当に最高でした。私はタバコに対して積極的でした。タバコの箱から一本を取り出してトントンとライターの上で遊ばせたら、フィルタを咥え火をつける。まずはスッと口内に吸い込む。そして吸い込んだ煙と一緒に深呼吸をし肺へ送り込む。そして一気に吐き出す。思い出しても最高です。

夏も終わり差し掛かる頃の夕方、一人で車に乗ってて黄色信号に捕まる。一本タバコに火をつけたらエアコンを全停止して窓を全開にする。信号が青になったら窓に肘をかけてくわえタバコでゆっくりとスタートする。(一番最高だったのはプロシードマービーの頃です。)大径のタイヤがゴロンと転がって5mを超える四駆がじわっと動き出す。それに合わせて冷房の効いた車内の空気が一気に晩夏の暖かく乾いた空気に入れ替わり汗がにじむ。2,3回吸ったら灰皿に置き、カップスタンドに挿してあるぬるくなったコーヒーを飲む。最高すぎます。夏の終わりに窓全開でタバコは本当に最高なんです。余談ですがマービーはぶっ壊れてオシャカになりました。もともと買ったときから水没車っぽかったんです。シートレール錆びないですよね?普通。

私は多分今でもタバコが好きです。タバコが好きだし、タバコを取り巻く一連が好きです。荷物として持ち歩くことですら好きでした。タバコと灰皿とライターをセットで持ち歩くの好きでした。家の中にはライターと携帯灰皿がそこかしこに転がってました。タバコ自体、関連するアイテム、タバコを吸う行為、タバコを吸っている自分、全てが好きでした。ただ私は小児喘息に端を発するタイプの気管支が弱いメンズでしたので、明け方寝ているとゲェッホゲッホ!!ゲホゲホゲホゲホ!!ゲホン!!と死を迎えるのではと思わせるほど咳き込んでいました。妻がとても心配してくれていました。

2010年台も半ばを過ぎた頃、世間はすっかり嫌煙ムードでしたが私は相変わらずヘビースモーカーでした。タバコは確かその頃1箱460円くらいだったかと記憶しています。その頃娘が生まれ家族が増えた私はやんわりとタバコを辞めたいと思うようになっていました。しかし具体的な行動は全くありませんでした。
ある日その話を友人が営むバーで酔いに任せて口走ります。娘も生まれたのでタバコを辞めたいと思っている。そう友人であるバーのマスターと、同席していたこちらも友人である常連客に話しました。そうすると二人から嘲笑され言われるのです。しょうちゃんは無理だね。意思が弱いから。辞めることはできないよ。なんだったら手伝ってやろうか?ほらタバコ出せよ。そう言われ私はマルボロをテーブルに置きます。そうすると友人はそのマルボロを私になんの断りもなく握りつぶしてゴミ箱へ投げます。私はその一連に腹を立てました。そして私はその場でタバコを辞めることを宣言します。そしてそれっきりタバコを辞めました。その晩から私はタバコを1本も吸っていません。電子タバコ水タバコ噛みタバコ、パイポやニコチンパッチやニコレットなどタバコ、ニコチンに類するものは一切口にしていません。飲みの席だからこの1本はノーカウントねなど一切ありません。そのタイミングから15年間常に私のそばにあった「タバコ」が無くなりました。それは存外にあっけなく、とても簡単な最後でした。

私は少なからず気が付いていました。明らかにタバコの優先順位が下がっていたし、もっと下げたいと感じていました。タバコを吸うとやはり臭いが気になります。吸った本人ですら気がつくのですから家族は相当だっと思います。さらに生まれたばかりの娘です。妻からはタバコを吸った後しばらくは娘を抱っこしないでと言われていました。私は家(ベランダ)でタバコを吸ったら手を洗って暫く娘と離れてから、頃合いを見計らって近づくということをやっていました。そのことをとてもバカバカしいと思っていたし、1本タバコを吸うことで娘との時間を犠牲にするということに疑問を感じていました。ただそれは思っていただけでした。それがふとしたきっかけでタバコを辞めることができたのはとても幸運なことだったと思います。ドラマらしいドラマなど全くなくタバコとの15年が終わりました。

なんでこのタイミングでこんなことを書こうと思ったかですが、禁煙をしてからずっと夢を見ていたのです。タバコを吸う夢です。私の夢は大学を留年する夢と留年したにも関わらず卒業できない夢。新社会人で夜中残業している夢と空を飛ぶ夢が多いのですが、禁煙後はタバコを吸ってしまう夢を良く見るようになりました。その夢では吸ってしまうシチュエーションは様々なのですが必ず吸った後に、「ああ、吸ってしまったか。仕方ない、これからはたまに吸うけど普段は吸わない人としてやっていこう」と自分に言い訳をするところまでがワンセットでした。しかももう私は普段の生活では全くタバコのことなんて気にしていないにも関わらず定期的に同じような夢を見るのです。朝目が醒めると夢であったこと、現実では吸っていなかったことに安堵すると同時にとても憂鬱な気持ちになるのです。

それが最近少し変わりました。夢の中でもタバコを断るようになったのです。夢の中でもタバコを吸わないようになりました。朝目が醒めると、夢の中でも吸わなかったことに対してすこし自信のようなものが生まれるのです。そうして1日を気持ちよく過ごすことが出来るのです。そうなって数週間なのですが、最近思うことがあるのです。私は、ずっと私自身がタバコに対して未練があるのだと思っていました。でもおそらくそれは違っていて、タバコが私に対して未練があるのだと思うようにしています。禁煙をされたタバコが、タバコを愛していた林田に対して未練があり、いつまでも付きまとう。そう思うようになりました。

ちょっと話が難しくなってきましたね。タバコを貴樹くん、私をあかりだと思って下さい。貴樹くんとあかりです。

貴樹くんとあかりは小学校の同級生です。二人はとても仲が良かったのですがそのことで周囲からからかわれることもありました。そんな二人は小学校卒業と同時にあかりが栃木へ引っ越しをすることで離れ離れになります。しかし心はしっかりと繋がっていて二人は頻繁に手紙のやり取りを行います。お互いの中学校生活にも慣れた頃、とあるきっかけで貴樹くんがあかりの住む栃木へ会いに行くことになります。貴樹くんの学校は東京23区の西側のどこかにあるようです。あかりの住む街は栃木県でも北部のほうなので中学生にはとても遠い距離です。その日貴樹くんは部活動をサボって中央線に乗ります。新宿で乗り換えて北上します。しかしこの日は数年に一度有るかないかの大雪、貴樹くんが乗る電車は途中で何度も止まります。そのたびに貴樹くんはとても不安な気持ちになります。貴樹くんがあかりの住む街の駅へ着いた時には事前にあかりへ伝えていた到着予定時刻を数時間も過ぎた後でした。貴樹くんは当然あかりはもう家に帰ったと思っています。しかしあかりは待っていました。ダルマストーブが焚かれる古い駅舎内のベンチに座り、一人で待っていました。貴樹くんは会えたこと、待ってくれていたことに対する嬉しさと、待たせてしまった申し訳無さで複雑な感情になります。それを察したのかあかりは、お弁当を持ってきたのでここで食べようと言います。二人は一緒にストーブの前のベンチでお弁当を食べます。なんだかんだあるんですがこの後確か二人はキスします。

貴樹くんはその後東京から種子島へ転校になります。貴樹くんが種子島へ転校してから暫くして二人は高校生になります。種子島と栃木ですので、もうどうしても高校生の二人が自分たちだけで会うことは難しい距離です。貴樹くんとあかりの手紙のやりとりも徐々に回数を減らします。1週間に1回はやりとりがあったのが、徐々に1ヶ月に1回、数ヶ月に1回と回数を減らします。二人の距離は徐々に離れていきます。その頃から貴樹くんは送る予定の無いあかりへのメールを作成するようになります。あかりへメールを送ろうと文章を作成し、送信ボタンを押さずにそのまま削除します。身の回りで起きたことをあかりへ伝えたいし、あかりの周囲で起きていることを知りたいと思いメールを作りますが、結局送ることができずにそのまま削除をします。
その頃貴樹くんのことを好きな女の子が現れます。貴樹くんはどこかミステリアスで何を考えているかわからない。しかし内面は真面目で誠実、そういうところに惹かれたのでしょう。
その女の子名前なんて言ったっけな、ちょっと調べてきます。見つけました。花苗です。花苗は貴樹くんのことが好きで好きで仕方がありません。貴樹くんが中学に転校してきた頃から好きで、貴樹くんと同じ高校に行くために猛勉強をして同じ高校へ入学したくらいです。それほどに貴樹くんが好きなのです。しかし花苗は知っているのです。貴樹くんにはどこか遠くに彼女か、彼女に近い存在が居て、私のことなんかこれっぽっちも見ていなくて、ましてや私が二人の間に入り込む余地なんてこれっぽっちも無いことを知っているのです。しかし佳苗は自分の気持を抑えることができません。どうしてもこの気持を貴樹くん伝えたいと思うようになります。そしてある日二人で一緒に帰っている時に伝えようと決心します。前を歩く貴樹くんを呼び止め、さあ言うぞというときに遠くで轟音と共にロケットが発射します。種子島ですから。夏の終わりの夕方、種子島の空をロケットが切り裂きます。夕日がロケットが残す煙の航跡を堺に夕方と夜を分けます。夕焼けに染まったオレンジの空と夕暮れの星が輝く深緑の空を1本の煙が分断し、その航跡を夕日が照らします。その空は残酷なまでに美しく、その美しさは、ロケットもしその空自体も手の届かない存在だと思わせることに十分でした。それを見上げた佳苗は貴樹くんへの告白をやめます。しかし佳苗はどこかすっきりした気分でした。

貴樹くんはその後東京の大学へ進学しIT関連の会社へ就職します。プログラマ、エンジニアのような仕事です。貴樹くんは相変わらずあかりのことを思っていました。東京で彼女もできました。でもあかりのことを忘れることはできません。彼女と同じベッドで寝ていてもあかりのことを思います。猥雑な男です。そうしてあかりへの思いが募り、それが解決できない感情なのだと気がつきはじめ貴樹くんの生活は荒れます。仕事が忙しかったことも影響していたのでしょう。家に帰ったらワイシャツのままネクタイを緩めて薄暗い部屋で直置きされたテレビをぼんやりと眺めながらビールや安い酎ハイを何本も煽ります。そんな生活が続き、貴樹くんはとうとう会社を辞めます。
その頃あかりは婚約者との新しい生活のために栃木から上京するため、駅で両親からの見送りを受けていました。あの日貴樹くんが大雪の中たどり着いた駅です。あかりは両親から送り出された列車中で婚約者とのあたらしい生活を楽しみにしつつ、こんなことを思います。「ゆうべ、昔の夢を見た。私も彼もまだ子どもだった」会社を辞めた貴樹くんも夜のコンビニに入る時にこのようなことを思います。「昨日、夢を見た、ずっと昔の夢。降り積もる深雪には、私たちが歩いてきた足跡しかなかった。」あかりはもう貴樹くんのとのことを過去の思い出としているのですが、貴樹くんはまだ少し引きずっているようです。

ここで曲が流れます。山崎まさよしの「One more time One more chance」です

───────

これ以上何を失えば 心は許されるの 
どれほどの痛みならばもういちど君に会える

〜中略〜

いつでも探しているよ、どっかに君の姿を
交差点でも、夢の中でも

───────

会社を辞めた貴樹くんはしばらくして自分でお仕事を立ち上げました。システムの開発を請け負うフリーランスです。春の日差しが差し込むマンションで仕事が一段落した貴樹くんは散歩へ出かけます。外は桜が満期で暖かな春の陽気です。散歩の途中複々線、つまり4本以上の線路が走る長めの踏切を貴樹くんは足早に渡ろうとします。渡っている最中に一人の女性とすれ違います。踏切を渡り終えた後、貴樹くんは何かに気付いて振り返ります。その時ちょうど踏切を列車が通過します。右から1本、それが行き過ぎると左からも1本列車が通過しました。長い列車が合計2本通過した後、踏切の向こうに女性の姿はありませんでした。貴樹くんが女性がいたであろう踏切の向こう側を見つめているとき、ふわっと風が吹き桜の花びらが舞いました。その花びらの落ちるスピードは秒速5センチメートル。小学生の頃にあかりが教えてくれたことでした。

………
気が付きました?
あかり(林田)はもう貴樹くん(タバコ)のことを過去の思い出にしているにも関わらず貴樹くんはかなり最近まであかりを引きずっています。さらに、山崎まさよしの曲で「夢の中でも探す」と言っています。同じですね。悲しいくらいに同じです。私がタバコの夢を見るのもわかります。夢の中でも探されてるんですから仕方ないですよね。井上陽水。
私はどちらかと言えば今までは貴樹くんに感情移入しておりましたが、今後はあかりに感情移入して観たいと思います。そんな私が一番好きなのは花苗です。

この投稿でタバコ自体、喫煙自体の是非を問うているわけでは全くありませんので、そこはわかって下さい。私自身ヘビースモーカーでしたのでタバコを吸う人に対しても、吸いたくなることに対しても一定以上の理解はあるつもりです。もちろん友人にも同僚にも親族にも取引先にも喫煙者はいます。それで良いと思っています。現代社会ではルールに則っていれば人はタバコを吸う権利があります。

ただタバコを辞めたいと思いながら吸っている人がいるとしたら、それはとてももったいないことです。もしそんな方がいたら少しだけ辞めるお手伝いができるかなとも思ってます。

以上、タバコを辞めて2年が経とうとしているというお話でした。
秒速5センチメートル観たくなりましたね。コスモナウトが一番好きです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です