濃紺グラデーション

出張の帰りの飛行機、久しぶりに窓側席を指定した。

社会人になってしばらく経った頃、何故か高いところとか狭いところとか逃げ場の無いところとか知らない人が真横にいる感じとかが怖くなってしまうタイプのよくわからない(といってもある程度有名な)病というか癖みたいなものを患ってから飛行機乗る時は通路側と決めてた。ここ数年は症状も全く出なくなってたけどそれでもおまじないのように飛行機に乗る時は必ず通路側の席を予約してた。

ここ最近仕事が忙しかった。というか今も忙しいんだけど。まあ忙しくて、ほんで出張の飛行機予約する時に、いつかまだイケイケの青二才で出張の経験もまだ殆ど無かった頃にくたくたに疲れた帰りの飛行機から見た夕焼けがきれいだったことを思い出して、最近ひぇっとなるタイプの症状も出ないし窓際座ってみるかと思ってなんとなく窓際を予約した。

ただ正直不安はあって、大丈夫かなって少しだけ思ってた。まあでも何か起きたところで死ぬわけでも怪我するわけでも病気するわけでもまったくないのでなんというか、あー怖かったってなるだけなので別にアレっちゃアレなんだけど。

3日間の東京での仕事終わって空港に行ったら機材変更で予約時と席が異なるとの放送があった。内心少しホッとした反面、残念な気持ちにもなった。所謂複雑なお気持ち。しばらくして搭乗の時間になってゲートでピッしてもらった紙に書いてあった座席番号が○○Aだった。A、これは窓側の席だ。窓側か。窓側ね。こりゃ窓側の席だわ。

期待と不安が同時に蘇ってきた。その日の天気は晴れ。東京も福岡も晴れだったのできれいな夕焼けが見れるなと思った。離陸は15時45分で到着が17時45分。タイミングも良さそう。もしかしたら雲が無くて地上が見えるめっちゃきれいな夕焼けになるかもしれないとか思った。と同時にやっぱ少し不安もあった。こえーなとも思ってた

搭乗ゲートを超えて前の人に続いて飛行機に乗り込む、途中何度か前の人の荷物収納を待って立ち止まりながら少しずつ進み、自分の席を見て思わず声が出た。なるほどね、なるほど。こういう答えもあるのね。その席は窓側の窓なし席だった。窓なしというか窓が著しく前のシートに寄ってるので普通の窓側ほど窓の外が見えない。ちょっと体を乗り出せば見れるけど、という感じの席。なんか少し安心した。で、やっぱり少しがっかりもした。窓側の窓なし席。話に聞いたことはあったけどこんな感じなんだ。

飛行機は予定を10分ほど送れて離陸した。遅れてすみませんとしきりにアナウンスされてた。そんなに怒るような遅れでもないのになと思いながらしばらくうとうとしてて、気がつくともう飲み物配ってくれるサービスが終わってる頃だった。見えにくい窓からも外がだいぶ暗くなってるのがわかった。もう少し様子を伺ってみようと窓を覗いたら予想通り雲が少なく地上が見えた。遠くの水平線はオレンジに染まり角度が高くなるほど空は紺色から濃紺へとグラデーションした。オレンジは地上も優しく照らして、高い角度には濃紺の空を背景にいくつか星も見えた。

めったに見ない夕暮れだった。思わず体を乗り出してしばらく窓の外を見てた。後ろに座ってた家族連れもきれいな夕焼けだねって言ってた。小さい子が喜んでた。きれいだねーってずっと言ってた。ね、きれいだよね。俺もそう思う。こりゃきれいだよ。俺も妻や子供たちにも見せたいなと思って写真撮ろうかとも思ったけどちょっと恥ずかしいかなとか、写真で撮っても伝わらないよなとか思って迷ってたら、飛行機が急に角度を変えて転回した。窓の外のグラデーションが急に濃紺一色になり、いつもどおり街のど真ん中を目掛けて高度を下げはじめた。迫る眼下の地上にイケイケの青二才だった頃に住んでたアパートを見つけたと思ったら、いつの間にかもう着陸してた。

もう少し忙しいのが続くけどなんかちょっと気分転換になってよかった。空港出ると外はすっかり夜で、3日前より福岡全然寒くなってた。


というおセンチなサラリーマンの話を思いついたので書いておきました

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