キャロラインとナポレオン

週末、大格闘の末に子供たちを寝かしつけ、キャロライン(仮名:妻)と二人で1時間前の食事の続きはじめたときのこと。二人で何か話をしていてふとしたきっかけからウィスキーを飲もう(俺だけ)ということになった。 キャロラインも、いいね。飲んだら? と勧めてくれた。

さて酒を並べてる棚を見渡してみるとワイン、焼酎、ラム、焼酎、?、焼酎、日本酒といった感じで並んでいた。ウィスキーはなかった。普段ウィスキーはアーリータイムスを常備しているのだが年末に切らしたっきり買っていなかったのだろう。困った。

キャロラインが言った

「あの“?”のやつを飲んでみたら?」 

棚にはひとつ謎の酒瓶が置いてある。その佇まいから洋酒であることが伺える。NAPOLEON?ナポレオンと書いてある。手にとってみた。そうだ、これは年末年始で実家に帰った際に父からもらったものだ。父は酒を飲む量がすっかり減ったにも関わらず、“酒飲み”という印象は変わらないのでよく贈答品で酒をもらう。減った酒量で飲むものはビールか焼酎なものだから洋酒の類はリビングの棚に収められては忘れられていく。そうして数が増えていく。その中の1本をもらってきたものだった。

「いやこれさ、なんだろう、ウィスキーじゃないっぽい。なんだ?なにこれ?ナポ?ナポレオン。ナポレオンって書いてある。」

「へー。なんだろう。高いお酒なんじゃない?」

確かに。ナポレオンと名が付く酒は安くは無さそうだ。こころなしか瓶自体も品の良い歴史を感じさせる形とデザインだ。だが日本語のラベルが見当たらないので何のお酒なのかわからない。そこで書いてある英語を頼りにネットで調べてみることにした。するといろいろとわかってきた。

「コニャック?コニャックだって。なるほどね〜コニャックかー。コニャック。コニャックって何?なんだろう。な、あーブランデーだって!ブランデー!へー。ブランデーかー。なるほどーそっか。ブランデーか。なんかブランデーってなんだろうね。ブランデー。」

「飲んでみたら?はいこれ。」

キャロラインがコルク抜きを渡してくれた。
まずは瓶の口まわりの封を丁寧に剥がす。カリカリと封をめくり出っ張った部分を指でツーっと剥こうとした時だった

「あっ!?あれっ!あーっ!」

「あっ 笑」

横で見ていたキャロラインも思わず笑った。封を剥ぐのと一緒にコルクが半分に折れてしまったのだ。相当に古かったのだろう。半分に折れたコルクが申し訳無さそうに瓶の口少し奥に留まっている

「えっ、どうしようこれ、まさか飲み切るわけにもいかないからね。どうするんだろうこんな時。」

するとキャロラインが言った

「あの、飲みかけのワインに封をするのがあるじゃない?あの円錐の形したやつ。あれを刺したらどう?多分あったと思うけど、」

「あーあれね。あったあった。千葉に住んでた頃にはたしかにあった。どこにあるかな?」

などと話しながら、“飲みかけのワインに封をするやつ”を探したがいっこうに見当たらない。キッチン以外の普段使わないものをしまっているところを探せばあるのかもしれないが、子供たちが寝ている今、納戸をゴソゴソと探すことは出来ない。諦めようかと思っていたらキャロラインが、

「なんか格好悪いけどラップして輪ゴムでも巻いとけば?で、明日にでもワインに封をするやつ買ってくればいいじゃん」

なるほど。
2秒で思いつくことをキャロラインは言い、2秒で思いつかなかった俺はなるほどと相槌を打った。
開けた後に栓をすることが出来ないという事態に対しとりあえずの解決策が出たので栓を開けることにした。コルク抜きを瓶の口奥に挟まっているコルクに刺そうとした時だった、

「ああーっ!あっ!なにこれ!!えー!」

「なにこれ 笑」

キャロラインも笑った。
半分になったコルクが瓶の中に落ちたのだ。ショック。もう飲めないじゃん。飲めないよね?これどうなんだろう。それほど古いってことだからな。どうだろう。匂ってみた。

「なんかね、すごい古そうな匂いする。いやわからないんだけど。古そう。多分。」

「えーやめたほうがいいんじゃない?危ないよ。コルクも落ちてるし。なんか小さいカスみたいになって漂ってるよ。」

キャロラインが瓶を持ち上げ照明にかざして中を覗き込んでいる

「そっか。もったいないけど捨てるか。」

ジョロジョロ〜とキッチンに流した。ナポレオンと名前が付いたブランデーを一本まるごとキッチンに流した。

「なんだったんだろうね。ウイスキーが飲みたいだけだったのに。あーあ」

と俺が言いながら、そもそもの目的のウイスキーが飲めず、代替となるはずだった酒すらも飲めなかったことに対してブツブツ言っていると

「なんかね、キッチンからすごい芳醇な香りがする 笑」

と食事の後片付けを始めたキャロラインが笑った。
後で調べたらコルクが落ちても全然飲めるし、そもそも1万くらいする酒だった。それでもでも良い。子供が寝た後に久しぶりにキャロラインと二人だけで楽しい時間を過ごせたのだから、一人で酒を飲むよりずっと良かった。

キャロラインとキャッキャしたうえでナポレオンも飲めたらもっと良かった。

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