ハッピーツーリングモード

いつもと変わらない夏の夕暮れだった。

用事を終え、いつもどおりスズキに跨り帰路についた。平日ど真ん中の水曜日、18時を少し回った頃の3号線の混雑具合は想像に容易いだろう。この日も例に漏れず大層な混雑だった。家路を急ぐ車に溢れた車道、歩道には自転車や人も多い。賑やかな夕暮れである。

私はどうだったか。いささか不機嫌だった。それは仕事の忙しさから来るものが大半だったが、この暑さと渋滞もその一端を担っていた。スズキに跨りながら早く進めよと悪態をついていた。

それでも市内中心部から東へ進むにつれ車の流れは徐々にスムーズになった。合わせて日もだいぶ傾き、そろそろ日暮れかという状況だった。車の流れに合わせて自身の機嫌も多少では有るが少しずつ持ち直していった。

3号線から自宅方面への脇道を右折する。車の量は一気に減った。あたりは田んぼや雑な空き地が広がる一帯。穏やかだ。少し進むと気がついた。

あ、車全然いないや。前にも後ろにも。全然いない

前後に車が一切いない状況が不意に訪れた。夕焼けは美しく初夏の空を染める。スズキは心地よくエキゾーストノートを奏でた。誰もいない。空気が変わり、美しいだけの、そして独りだけの夏のマジックアワーに飛び込んだ。

あーこれハッピーツーリングモードだ!あーっはっは!そうそう!これハッピーなやつ!あー、そうそう!あすごい良い!あー良い〜!すごいすごい!きれいだし空!きれいだなー!向こうの山!すごいきれい!すごい!あーハッピーツーリングモード今年初じゃないかな!きもちい〜!あっはっは!は〜あ、あーすごい良い〜!気持ちいいしめっちゃきれい〜!ハッピーツーリングモードだ!すごい!早く帰ってビール、あっは!はー、ビール飲もう!いいじゃん!すごい!

最高だった。

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